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執筆者の写真北島コウ

NTT法改正と今後の議論の行方

皆さん、こんにちは。

以前の記事で、NTT法廃止議論について解説しました。

その後、いきなり廃止までいくのでなく、いったんはNTT法を改正する方向で3月1日に閣議決定されて今国会で審議されることとなり、今後については付則に「廃止を含めて検討」と盛り込むという着地になったもようです。

この話題はあまり大きなニュースとなることもなく、業界内の揉め事のように思われるかもしれませんが、インターネットやスマートフォンがこれだけ私たちの暮らしやビジネスを支える基盤インフラとなっている中で、今後の日本の情報通信技術の行方を左右しかねない問題だと思いますので、もう少し解説しておきたいと思います。

 

◇過去のニュースレター記事「NTT法廃止議論について思うこと」(2023/10/31)

 

◇日本経済新聞「NTT法改正案、2段階で 付則で『廃止含め検討』」(2024/3/2)※全文を読むには無料会員登録が必要です。


新宿から見えるNTTドコモ代々木ビル(通称ドコモタワー)の写真
新宿から見えるNTTドコモ代々木ビル(通称ドコモタワー)

今回のNTT法改正内容

今回の改正案では、昨年のニュースレター記事でも紹介した研究開発成果の公開義務の廃止の他、外国人の役員を一部認める(3分の1まで、代表権は持てない)ことや、商号の変更も可能にすることが盛り込まれています。

商号については、現在の「日本電信電話株式会社」という、すでにサービス提供の終了した「電信」(テレックス)といった古めかしい用語が含まれた社名を、もっと時代にマッチしたものに変えたいんでしょうね。

これらの改正はいずれも妥当性のあるもので、大きな異論はないと思います。

やはり前回記事で解説した非対称規制のあり方やユニバーサルサービスの問題が根源的な論点であり、これらは結論を出せず、今後の議論に積み残しとされたという状況です。


情報通信市場における公正競争のあり方をイメージした写真
情報通信市場における公正競争のあり方とは

「NTT法と通信の未来」

3月11日の日経新聞に、「NTT法と通信の未来」と題して、インタビュー記事が掲載されました。

意見を述べているのは、NTT島田明社長、自民党情報通信戦略調査会事務局長の大岡敏孝衆院議員、そして情報通信政策に詳しい東京大学の森川博之教授の3氏です。

森川教授は総務省の審議会の座長などもたびたび務められており、私も森川先生が座長をされる検討グループに参加したこともありますが、この森川先生が述べておられる内容は、私としても非常に納得できるものでしたので、紹介したいと思います。

 

◇日本経済新聞「NTT法と通信の未来 新技術見越した制度に 東京大学教授森川博之氏」(2024/3/11)※全文を読むには無料会員登録が必要です。

 

森川教授は、公正競争条件を担保した上で、「情報通信基本法」のような、時代に合った新しい法制度を整備すべきだと述べられています。

まさにその通りで、NTT法を廃止するか、しないかといった些末な議論でなく、大きな視点で今後の情報通信政策のあり方を議論すべきです。

そしてそこには、健全な市場競争がイノベーションを産み出してきたという事実を基本に据えるべきだと思います。

携帯電話における市場シェアが(参入したばかりの楽天モバイルを除き)3社でほぼ拮抗しているとは言え、通信ネットワークの根幹を担うインフラ設備(管路・マンホール、電柱、鉄塔、局舎など)は、逓信省(ていしんしょう)、電電公社時代からの長い歴史を持つNTTにほぼ頼らざるを得ない実態を考えれば、非対称規制を前提とした競争構造は不可欠です。


情報通信インフラはビジネスの基盤であることをイメージさせる写真

人口減少とユニバーサルサービス

また、ユニバーサルサービスにあり方について森川教授は、「日本の人口減少を前提に考えないといけない」と述べられています。

モバイル通信に関するサービスエリアの指標として、「人口カバー率」という考え方があり、各通信事業者は公式に公表していませんが、楽天モバイル以外の3社とも99%超の人口カバー率に達しているのが実態です。

実際に通信事業者の建設部門で、4G-LTEなどのエリア展開を担当してきた私の経験から言えば、特に95%を超えた先の数%のエリア拡大には、とりわけ莫大なコストがかかります。

これまでは人の住んでいるところはどこでもつながらなければならないことが前提になってきましたが、今後人口が減少していく中で、いつまでもそのやり方を維持できるのか。

ユニバーサルサービスはNTT東西の固定電話を対象としていますが、森川教授は人口減少を前提に、モバイルの他、衛星通信など新たなテクノロジーも組み合わせたトータルな議論で考えるべきと主張されており、至極もっともだと思います。


通信インフラの一つである無線鉄塔のイメージ写真

根本的な課題に対してもっと腰を据えた議論を!

今回のNTT法廃止議論の発端は、防衛費をGDP比2%に増額するために、その財源として政府の有するNTT株式を売却するというアイデアから出発しました。

そもそもそんな場当たり的な話ではないはずで、そんな議論のされ方をしていること自体に腹立たしさを覚えます。

情報通信インフラのあり方は、国家の経済安全保障にも関わる重要テーマです。

森川教授は、こうした基本的議論がされてこなかった原因として「通信業界の保守的な思考」も危惧され、「今のNTTの人材だけでグローバルな事業展開は難しいと感じる」とも述べられています。

多様なプレーヤーが切磋琢磨することで新たなテクノロジーを生み出していく。

今後の議論では、時代状況に応じた健全な情報通信市場へと発展させていけるよう、そういった前向きな議論に期待したいです。

それでは今回はこの辺で。

宜しくお願い致します。

 

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