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執筆者の写真北島コウ

NTT法廃止議論について思うこと

更新日:2023年11月28日

皆さん、こんにちは。

最近、新聞などで、「NTT法廃止」というワードを見かけることがあるかと思います。


◇日本経済新聞「NTT法『廃止』を主張 NTT社長、初の言及」(2023/10/20)※全文を読むには無料会員登録が必要です。


NTT法、すなわち「日本電信電話株式会社等に関する法律」は、1985年に旧電電公社が民営化され、日本電信電話株式会社(NTT)が誕生した際に、それまで国営企業として担っていた特別な役割を維持する目的で制定された法律で、現在も生き続けています。

私はNTT民営化を機に発足した競争会社、いわゆる「新電電」の一つに1987年に入社し、通信業界の競争環境の中で今日まで働いてきましたので、最近の議論にはいろいろと思うところがあります。

今日はこのことについて、少し述べてみたいと思います。

NTT本社がある大手町ファーストスクエア(Wikipediaより)
NTT本社がある大手町ファーストスクエア(Wikipediaより)

NTT法廃止議論の経緯と論点

今回のNTT法廃止議論は、防衛費をGDP比2%にまで増額するとの自民党の公約を実現するために、その財源として政府の有するNTT株式を売却するとのアイデアを発端として、それならば成立後40年近くにもなり、時代にそぐわない点もあることから、いっそのこと撤廃してはとの党内議論に発展してきたという経緯です。

NTTは民営化の後、1988年にNTTデータが、1992年にはNTTドコモがそれぞれ分社独立し、そして1999年にNTT東日本・西日本、NTTコミュニケーションズ(NTTコム)を分割し、NTT持株会社を中心とする体制に移行して、この体制がNTT法には明記されています。

この時期の通信サービスの中心であった固定電話においては、各家庭に引き込まれている加入者回線はNTTがほぼ独占的に保有しており、当時、主として県間通信を提供していた新電電においては、首根っこをNTTに握られている状態だったのです。

そこでNTTコム(長距離通信)とNTT東西(地域内通信)とを分割することにより、公平公正な競争条件(イコール・フッティング)を実現するという趣旨によるものでした。

NTTと競争事業者の変遷を表した図(筆者作成)

この前提のもとで、電気通信事業法では各事業者間の公平な接続を義務づけています。

NTTは旧公社時代から潤沢なインフラ設備(管路・マンホール、電柱、鉄塔、局舎など)を保有し、新規参入事業者には無い圧倒的な市場支配力を持つことから、「非対称規制」といって、そのようなドミナント企業(支配的企業)には強い規制や義務を課すことにより、公正な競争市場を作り出すという考え方になっているのです。

同様の考え方に基づき、NTT東日本・西日本には全国津々浦々に電話サービス等(基礎的電気通信役務)を提供することを義務付けており、その代わりに、そのコストの一部を月額3円程度の「ユニバーサルサービス料」として、全ての固定電話サービス利用者が負担しています。

またNTT法では、電気通信技術の研究成果の普及を通じて、社会経済の発展に寄与するよう努めなければならないと定めており、これはNTTに研究開発成果の開示を義務付けているものと解釈されています。

しかしながら一方で、特にモバイル通信事業の売上・利益では、NTTドコモがもはやKDDI(au)やソフトバンクの後塵を拝することも出てきていること、あるいは海外のハイパースケーラー(GAFAM等=Google、Apple、FaceBook(現Meta)、Amazon、Microsoft)の台頭の中で日本の情報通信産業の遅れが目立ってきていることなどを背景に、NTTへの規制を緩和・撤廃し、NTTの事業基盤を強化すべきという意見が出てきているわけです。

都市に広がる通信ネットワークを表すイメージ写真

議論の動向と競争事業者の反応

この問題については、自民党が11月中にも意見集約をはかる方向で、PT(プロジェクトチーム)の開催を重ねています。

NTTは、NTTデータを2018年に、またNTTドコモを2020年に完全子会社化、さらにNTTドコモがNTTコムを2022年に完全子会社化し、実はNTT東西を除いて前述の分割体制はすでに変化し、再統合の動きが加速しています。

特に2020年のTOBによるドコモ吸収は、割と唐突にシレッと行われ、驚かされました。

NTTの政治力が強く働いたものと思われます。

そういったこともあり、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル等の競争事業者は、時代状況に応じたNTT法の見直し・修正は必要と認めつつも、廃止は許されないとの主張を繰り広げています。

自民党PTがどのような結論に至るのか、それに対して監督官庁たる総務省がどのような采配を振るうのか、注目されるところです。

通信鉄塔のイメージ写真

ネット上の反応と私の意見

このニュースに関するYahooコメントなどの反応を見ると、GAFAM等の台頭に対する我が国の情報通信産業のビハインドを考えれば、NTT法を廃止してNTTの強化を図るべきだといった意見が多いようで、いっそのことNTT独占の国営化に戻すのもアリといった、過激な意見も見られます。

たしかに日本のデジタル化水準がOECD諸国でもかなり下位に沈んでいるといった報道を目にすると、狭い日本の中で競争だなんだと言っているより、NTTに集約したほうが良いのではないかといった気持ちは分からなくはありません。

ただ・・・、私はそうは思いません。

NTTの技術力は素晴らしいし、優秀な社員がたくさんいらっしゃることももちろん認めていますが、NTTという企業は、極めて政治性の強い会社だと、私は思います。

NTTを強化することが日本のイノベーションの力を強くすることになるかというと、私にはそうは思えないのが、長年通信業界に身を置いてきた私の率直な印象です。

以前の記事にも書きましたが、日本の情報通信市場では、競争によってイノベーションが進んできました。

それは明白な事実です。

固定音声の時代からモバイルデータ通信の時代へ、またグローバル化といった変化なども踏まえ、中身の見直しを行うことはもちろん必要だと思います。

しかし、モバイル主流の現代にあっても、実はその基幹ネットワークとなる光ファイバー網のほとんどをNTTが押さえているなどの実態を踏まえれば、NTT法において相応の義務と規制を課すことは当然であるというのが、私の意見です。

今後の動向を注視したいと思います。

それでは今回はこの辺で。

宜しくお願い致します。

 

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