いよいよ始まったスマホと衛星との直接通信
- 北島コウ
- 4月22日
- 読了時間: 6分
皆さん、こんにちは。
ついに来ました。
KDDIが、米SpaceX社のスターリンクと連携して、スマートフォンと衛星との直接通信サービス「au Starlink Direct」を開始しました。
KDDI松田新社長の就任記者会見に合わせたサプライズ発表。
以前からこのニュースレターでも注目してきた、スターリンクの「Direct to Cell」(D2C)構想が、日本においてKDDIによって実現された形になります。
これまでiPhoneでは限定的に「緊急SOS通信」として衛星との通信が可能なことは、以前のニュースレターでも紹介しているとおりです。
◇過去の記事「iPhoneの衛星経由緊急SOSについて」(2024/9/17)
今回のサービスでは、Androidを含む幅広いスマートフォンで、しかも緊急通信に限らず、通常のメッセージ送信などにも対応しています。
大きな前進であり、エポックメイキングなサービスの開始と言っても良いかもしれません。
今回は、この「au Starlink Direct」について紹介したいと思います。
◇au Starlink Direct登場
◇KDDIニュースリリース「au、日本全土をエリア化、衛星とスマホの直接通信サービス『au Starlink Direct』を提供開始」(2025/4/10)

スマホと衛星との直接通信が切り開く可能性
今回の「au Starlink Direct」は、モバイル通信の概念を大きく変えるものになるでしょう。
日本における携帯電話の人口カバー率は99%を超えており、都市部ではほとんど電波の届かない場所はありません。
しかしながら、実は面積カバー率で言うと6割程度にとどまっており、山間部や離島、北海道の原野など、人の住んでいない地域では「圏外」も多く残されていました。
そのため、例えば山岳遭難時の救助要請や、農林水産業のIoT活用において、通信の不達が障壁となることも多かったのです。
今回のau Starlink Directでは、「空が見えればどこでもつながる」をキャッチフレーズにしています。
つまり、基地局の無いエリア外の場所でも、頭上のD2C対応衛星を基地局として、スマートフォン単体で通信が可能になるということです。
これにより、山奥での登山やキャンプ、広大な農地や海上での作業といった、これまで通信が届かなかったあらゆる場所での活用が期待されます。
まさに「通信のユニバーサルサービス」が一歩進化したと言えるでしょう。

実用フェーズに入ったD2C、今後の課題と期待
KDDIが発表した対応機種を見ると、iPhone以外にAndroidスマートフォンとして、Galaxy、Google Pixel、Xperia、AQUOSなど、対応機種数は50機種に及ぶとのこと。
なかなかのインパクトで、しっかり準備してきた印象です。
D2Cは、宇宙を周回する衛星と通信するわけですから、基本的に高速・大容量の通信には不向きであり、テキストメッセージのやり取りなど、少量のデータ送信に限られます。
ただau Starlink Directでは、生成AIとのチャット機能をサービスに盛り込んできました。
Android端末なら「Googleメッセージ」アプリを通じて、Googleの生成AI「Gemini」と会話が可能になっており、情報検索やちょっとした相談にAIが答えてくれるというもので、面白い工夫だと思います。
今後の展開として、私が特に注目しているのは、IoT分野での活用です。
これまでもニュースレターで取り上げてきましたが、農林水産業では高齢化や人手不足が深刻化するなかで、IoT技術を活用したスマート化が不可欠です。
◇過去の記事「人口減少社会を乗り越えろ、IoT技術について」(2025/3/11)
しかしながら、都市部と違って電波の届かない圏外地域も多く、IoT機器を設置しても「通信できない」という課題がありました。
今回のサービスは、現時点ではまだ対象スマートフォンによるテキストメッセージ送信に限定されていますが、今後一般的なデータ通信も可能になれば、北海道の広大な農地や海上でさえもIoTを活用できることとなり、生産性や安全性の向上に大きく貢献するでしょう。
ただし、現状では、まだD2C対応衛星の数が少なく、常に通信可能というわけではないようです。
昨年(2024年)12月の時点でD2C衛星は高度340kmの軌道に330機が投入され、最初の「シェル(軌道層)」が完成したとのことですが、大型アンテナを使う従来のスターリンクサービス用の衛星(高度約550km)は既に8,000機超が配置されているのと比べると、まだ数がかなり少ないです。
携帯ジャーナリストの石川温氏が、記者発表のあったすぐ翌日4月11日に、さっそく都内でauが圏外となる場所を探し出して、au Starlink Directを試してみたが、衛星を捕捉するのが難しく、つながり辛かったとレポートしています。
◇ケータイWatch「スマホと衛星の直接通信『au スターリンクダイレクト』のために圏外へ! 使い勝手を試してみた」(2025/4/11)
私も以前にイリジウム携帯電話を使ったことがありますが、衛星電波(イリジウムは66機)を捕捉するのは難しかったので、あんな感じかなーと想像できます。
現状では、もう少し上空が開けたところでないと、うまくつながらないのでしょう。
D2C軌道に最終的に何機の衛星を投入するのかは明らかにされていないようですが、うたい文句どおり「空が見えればいつでもつながる」を実現するには、もう少し時間がかかるかもしれません。

今後の普及とビジネスへのインパクト
今回の「au Starlink Direct」は、KDDIのauブランドのみでの提供となり、auのサブブランドであるUQ mobileやpovoでは、現在のところ利用できません。
料金は「当面無料」とされていますが、相当なコストがかかっているサービスなのですから、まあいずれは有料化するのでしょう。
他の通信キャリア、NTTドコモやソフトバンク、楽天モバイルも同様のスマホと衛星との直接通信サービスを検討、準備していると伝えられていますが、具体的な提供時期は明らかになっていません。
SpaceX社CEOのイーロン・マスク氏は、X(旧Twitter)で「T-Mobile(米国の通信キャリア)はD2Cを1年間独占提供する」と発言しており、各国の通信キャリア(日本ではKDDI)が1年間独占提供する契約になっているのではないかと思われます。
この独占期間が過ぎれば、他のキャリアでもD2Cをオープンに利用した衛星直接通信サービスが提供されるかもしれません。
いずれにせよ、衛星を介してスマートフォンで直接通信できることが、今後当たり前の手段となる時代がいよいよ来たことは間違いないと思います。
先ほど述べたエリア外地域でのIoT活用によるビジネス面での広がりの他、災害時に地上ネットワークが使えなくなった場合のBCP対応手段としても大きな役割を果たすと思われ、公共インフラのレジリエンス向上にも貢献するでしょう。
中小企業の皆さまにとっても、この新しいインフラの活用により、新しいビジネスチャンスの創出につながる可能性があります。
新しい通信の時代の始まりを、ぜひチャンスとして捉えていただければと思います。
それでは今回はこの辺で。
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