総務省デジタルポジティブアクションの取り組み
- 北島コウ
- 9月24日
- 読了時間: 7分
皆さん、こんにちは。
私は、デジタル庁が所管する「デジタル推進委員」に登録しており、このことは以前のニュースレター記事でも紹介しています。
◇過去の記事「『みらデジ』の終了とデジタル推進委員登録について」(2025/3/18)
先日、デジタル推進委員向けにオンラインイベントが開催され、総務省 情報流通行政局情報活用支援室の奥村課長補佐より、今年から総務省が推進している「デジタルポジティブアクション」の取り組みについて説明がありましたので、今日はこれについてご紹介したいと思います。

デジタルポジティブアクションとは
デジタルポジティブアクションの目的は、SNS等のデジタル空間で誹謗・中傷等の違法・有害情報や、ニセ情報・誤情報などが拡散されることが社会問題化していることから、デジタル空間における情報流通の健全性に関する普及啓発によって総合的なリテラシー対策に取り組むものとされています。
◇総務省デジタルポジティブアクション
ネット上の誹謗・中傷によって人権侵害されているケースが後を絶たない他、最近の国政選挙・地方選挙などで、あやふやな真偽不明の情報の拡散によって人々の投票行動が大きく左右される動きも激しくなっていることも契機となっているのではないでしょうか。
Google、LINEヤフー、Meta(Facebook、Instagramを運営)、X(旧Twitter)などのプラットフォーム事業者、ドコモ、KDDIなどの通信事業者、および関連団体が参加し、官民を上げて取り組む体制を作ったということです。
現時点では、まだTV・WebCMを作成するとか、Webサイトを立ち上げるなどの活動に留まっており、下のWebCMもなんだかよく分からない抽象的な内容ですが、まぁ活動はまだ始まったばかりですので、これからもっと分かりやすく展開をしていくのではないかと思われます。
◇Youtube デジタルポジティブアクションWebCM はじめよう篇30秒
インターネットはだいたい1995年ごろから日本で普及し始め、1996年にNTTがOCNサービスを開始して本格化しました。
私は、インターネット登場以前の「パソコン通信」と呼ばれるオンラインサービスの時代からこういったものを使ってきましたが、あの当時はまだ牧歌的で、分からないことがあれば誰かが親切に教えてくれるといった、ボランティア精神溢れる世界に感動したことを今でも覚えています。
それから30年。
有害情報やニセ情報が蔓延するネット空間に様変わりしたことに、ため息の出る思いですが、こうした取り組みを通じて、インターネットやSNSが人々に役立ち、社会を豊かにするツールであり続けるようにしていくことは重要だと思います。

ICTリテラシー実態調査結果の概要
奥村補佐の説明では、総務省が実施した「ICTリテラシー実態調査」の結果概要も紹介されました。
今年3月~4月に行われ、全都道府県の15歳以上の男女2,800名余りに対して実施されたものですが、日本ファクトチェックセンターがニセ情報あるいは真偽不明情報と認定した15件の情報に関して、それが正しい情報であると思ったかどうかを尋ねたところ、約48%の人が「正しい」もしくは「おそらく正しい」と思ったと回答したそうです。
そしてさらに、そのうち約25%の人がそれを何らかの手段で拡散したとのことです。
拡散には、家族や友人などの身近な人に話したり、メッセージアプリなどで伝える、あるいは「イイネ」ボタンを押したり、リツィートするなどが含まれます。
なぜ拡散したのかを問うと、「情報が驚きの内容だったため」、「情報が重要だと思ったため」など、決して悪気は無いものの、情報が誤っていることに気付かなかったために、結果としてニセ情報の拡散に加担してしまったという傾向が見てとれるとのことです。

全ての情報にはバイアスがかかっている
一部に、「TVや新聞などの『オールドメディア』は政府の意向によってバイアスがかかっているので、信用できない。SNSのほうが信用できる」という意見がありますが、私はこれには同調できません。
と言っても、「オールドメディア」のほうが信用できると言っているのでもありません。
そもそもどんな情報であっても、バイアスのかかっていないものなど無いと思うからです。
TV、ラジオ、新聞、雑誌などの媒体情報は、全てその制作者の意図によるフィルターがかかっています。
「不偏不党」を社是に掲げているメディアであっても、もちろん国営放送NHKを含め、100%「不偏不党」ということはあり得ないのです。
若い頃に読んだ、エドワード・サイード著「イスラム報道」(1986年刊)という本は「ジャーナリズムの教科書」とも言われている古典的名著ですが、西欧諸国における中東、イスラムに関するニュース報道がいかに「無知・ステレオタイプ・政治的先入観」に基づくもので、誰が何を知るか、あるいは何を報じるか、どう報じるかは、政治的・文化的・社会的な力関係の中で決定されると述べていました。
◇エドワード・W・サイード著「イスラム報道」
日本においても、原子力発電の安全神話や、近年でも大手芸能プロダクションでの性加害問題などを始めとして、オールドメディアが決して信頼のおけるものとは言えないことは明らかになっています。
ではSNSのほうが信用できると言えるでしょうか?
たしかに、誰もが情報発信できる手段を得たことで、「オールドメディア」が報道しないような事実を暴き出しているもの、あるいはTVのように時間の「尺」を気にせず丹念に掘り下げた良質なコンテンツも、中にはあります。
しかしインターネットやSNSは、閲覧数やフォロワー数、「イイネ」の数がそのままお金につながる「ネット資本主義」の世界。
過激なタイトルや憶測記事でクリック数を稼ぐことが当たり前に行われているのが現実です。
また特定の政治的主張を扇動するために、匿名性を利用して意図的に嘘や陰謀説を流し、人々の不安を煽り、それを繰り返すことも普通に行われているのです。
これらの情報はあたかも真実であると人々に信じさせるよう、巧妙に偽装されており、ニセ情報だと見抜くことは相当困難です。
多くのSNSでは、ユーザーの閲覧履歴に基づき、関心のある内容ばかりが優先的に表示され、関心の低い内容は表示されにくくなるアルゴリズムが採用されています。
これにより、そのユーザーは特定の情報だけに囲まれがちになり(フィルターバブル効果)、多様な視点で物事を見ることができなくなり、心理学用語で言うグループポラライゼーション(集団極性化現象)が強まって、分極化が進むこととなるのです。
福田直子著「デジタル・ポピュリズム 操作される世論と民主主義」(集英社)は2018年に刊行された本ですが、当時は米国でトランプ氏がヒラリー・クリントン氏を破って初当選した2016年の米大統領選挙や、同年のイギリスのEU離脱を問う国民投票、また新興極右政党AfDが躍進して話題になった2017年のドイツの連邦議会選挙などにおいて、SNSによるキャンペーンが人々の投票行動に大きな影響を与えることが注目され始めた時期でした。
同書を改めて読み直してみると、それから7年が経った最近の日本において、まさに似たような状況が現れ出していることを再認識させられます。
◇福田直子著「デジタル・ポピュリズム 操作される世論と民主主義」(集英社)
インターネットやSNSは私たちの暮らしを大きく変えました。
もはや私たちはこれらを利用しない時代には戻れません。
しかしそこには誤情報や意図的なニセ情報も至るところに転がっていることを理解しなければなりません。
さらに、それらの嘘や誤りは、AI技術の進化によってますます見分けることが難しくなりつつあります。
それらに簡単に騙されない方法は、先ほども述べたとおり、どんな情報であっても「バイアスのかかっていない情報はない」ことを理解することではないでしょうか。
びっくりするニュースに出会っても、それをいきなり拡散するのでなく、いったん「これってホント?」と疑ってかかることが、「ネット・リテラシー」の第一歩であると考えます。
私は中小企業様向けの活動を中心としていますが、中小企業様においてもインターネットやSNSの活用は重要なテーマであり、こうしたデジタル空間のメリットやリスクも踏まえつつ、上手に活用していけるよう、デジタル推進委員として啓発に努めていきたいと思います。
それでは今回はこの辺で。
宜しくお願い致します。
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