皆さん、こんにちは。
以前の記事で、中小企業を支援する新現役交流会の仕組みについて紹介しましたが、そこに出てくる課題リストで最も目につくのが販路開拓と人手不足に関するお悩みだと思います。
◇過去の記事「中小企業を支援する新現役交流会とは」(2024/7/30)
人手不足に関しては、急速な少子高齢化により働き手の絶対数が減っていることもあって、特に中小企業で深刻化していることは間違いありません。
今日はこの問題について、私見を述べたいと思います。
解雇規制緩和論について
ちょうど今、自民党総裁選挙の真っただ中であり、岸田首相の退陣表明を受けて、9人の候補による論戦が連日繰り広げられていますが、その中の論点の一つに解雇規制緩和問題が挙がっています。
これまでも議論されてきた課題ではあるのですが、特に最近高まっている人手不足解消の意味合いで、労働力の流動性を高めるとの観点から、欧米に比べて極めて厳しいと言われている解雇規制を緩和すべきと主張されています。
日本においては、過去の判例上、整理解雇の4要件と言って、①人員整理の必要性、②解雇回避努力義務の履行、③被解雇者選定の合理性、④解雇手続の妥当性という4つの要件を満たさない解雇は、解雇権の乱用であり不当とされてきました。
こうした中で、経営不振に陥った大企業が実施した整理解雇が無効とされた判例もあり、正社員を解雇すること自体が極めて厳しいという状況になっています。
働く側の立場から言えば、私自身、大手企業で36年勤務してきた中で、懲戒処分を受けるような不祥事でも起こさない限り、解雇されるような身の危険を感じたことはなく、思い切って伸び伸びと仕事をさせてもらえたことは有難いと思っています。
また、例えば介護や出産・育児、あるいは心身の疾病など、働く意欲はあってもなかなか思うように働けない人が、整理の対象とされないような制度の整備も、ここ20~30年の間に進み、それは働く人の心理的安全性に大きな効果をもたらしてきたと言えるのではないでしょうか。
ただ、一方では企業側の都合による解雇が難しいことを良いことに、働く気がないのに会社に居座っているだけの社員が一定数いることも現実だと思います。
私が管理職だったときも、特に40代以上で、すでに昇進意欲もなく、リーダーシップを発揮することもない、「安住層」と呼ばれる部下の扱いに頭を悩ませました。
現在論じられている解雇規制緩和論は、企業側の使用者の立場だけでなく、実力主義の観点から、働かない安住層は解雇できるようにすべきだと、若い働き手世代の一部でも支持する意見があるようです。
硬直化した仕組みは変革すべき
某総裁候補の解雇規制緩和論には批判も多く噴出したことから、リスキリングや再就職支援を充実させることで、労働市場を改革する意図だと説明しています。
私の意見としては、働き手の心理的安全性を損なわず、せっかく整備してきた、介護や育児をしながら働く人の権利を後退させないとの前提の上で、やる気の乏しい「安住層」に危機意識を植え付け、戦力化するためのカンフル剤という点では、意味のあることなのではないかと思います。
新総裁は今週中にも決まるようですが、誰になるにしても、少子高齢化の中でも経済を活性化するため、硬直化した仕組みの思い切った変革に取り組んでもらいたいものです。
中小企業に若い力を集めるポイントとは
ただ、仮に解雇規制が緩和され、やる気の乏しい「安住層」が解雇されたとして、それが中小企業の人手不足解消に役立つものになるのでしょうか?
解雇規制緩和によって労働市場に出てくる労働力と、中小企業が求めている戦力にはミスマッチがあるように思われます。
そもそもかつての終身雇用はすでに崩壊し、キャリアアップを求めて企業を飛び出す社員は増えています。
先週の日経新聞には、働き方を改革しているはずの企業をあえて飛び出した若手社員の考え方が掲載されていました。
◇日経新聞「『ゆるブラック』にご用心 残業や待遇を改善…若手なぜ辞める?」(2024/9/20)※全文を読むには無料会員登録が必要です。
「ゆるブラック」とは、若手社員に無理をさせないよう福利厚生や業務マニュアルがしっかり用意されているがゆえに、むしろ若者が「ゆるい」と感じ、やりがいや成長を実感しづらい職場のことを言うそうです。
苦労して採用した若手社員が辞めてしまわないよう、職場環境を整備し残業を減らしたにもかかわらず、そのことが一部の意欲ある若者には「ゆるい」と感じられ、離職理由になるとは、何とも皮肉な話です。
記事によれば、貪欲な若者はチャレンジと成長とを求めています。
「若者は残業したがらないと言われるが、私は違う。意義が分からない仕事は苦痛だが、成長を感じられる仕事は楽しく、いくらでもできる。」とは、記事内の若手ビジネスパーソンの発言です。
これを読んで、かつての私自身を思い出しました。
社員わずか200人のベンチャー企業に新卒入社し、残業も多く、苦労も絶えませんでしたが、誰も踏みいれていない原野を切り拓いていく面白さで、辛いとは感じなかったことを今も覚えています。
そもそもそんな会社に飛び込んだ理由も、新たな事業にチャレンジするワクワク感、ほぼそれだけだったと言っても過言ではありません。
人手不足に悩む中小企業の経営者の方々に考えていただきたいのは、自社が若者たちにとって成長を夢見ることができる会社なのかどうかです。
繰り返しますが、意欲ある若者はチャレンジと成長とを求めています。
新たな変革にチャレンジし、業績を伸ばしていこうとする野心溢れた企業には、若者たちは集まってくるはずなのです。
中小企業の経営者自身が、「安住層」になっていないでしょうか?
新現役交流会の課題リストには、人事採用サービス等の利用に関する相談も見受けられますが、そういった方法論以前の問題として、自社の事業が若者にとってチャレンジングなものになっているか、そのことをよく振り返ってみるべきかと思います。
前にも書きましたが、「DX」の本質は、「X」=Transformation(変革)にあります。
それはある意味、変革できない企業は生き残れない、「淘汰の時代」であるとも言えます。
中小企業に若い力を集めるポイントは、手段や方法論ではなく、その会社が変革にチャレンジしているかどうかにあると私は思います。
それでは今回はこの辺で。
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