皆さん、こんにちは。
電気通信業界は昔から携帯電話のユーザー獲得合戦などで激烈な競争環境にあることで有名ですが、最近は協調して一緒にやる動きが増えている点について解説したいと思います。
NTTの「IOWN」構想の推進団体に他3事業者も参画
最近のニュースになったものとして、NTTが進める次世代通信基盤「IOWN」(アイオン)の推進団体「IOWN Global Forum」にKDDIと楽天モバイルとがすでに加入し、ソフトバンクも加入する見通しという話題があります。
◇ケータイWatch「IOWN加入報道にソフトバンク『検討しているのは事実』」
IOWNとは、NTTが研究・推進する次世代のネットワーク・情報処理基盤構想で、Innovative Optical and Wireless Networkの略となります。
直訳すると「革新的光・無線ネットワーク」となりますね。
現状の100倍以上の超高速光ファイバー伝送技術を中心に、圧縮・変調処理や光・電気変換に伴う遅延などを抑え、さらにそこに超高速コンピュータの計算処理も組み合わせることで、新時代の情報ネットワークインフラを構築するという構想です。
「このモバイルの時代に光ファイバー?」と思う方もいるかもしれませんが、実は高速モバイル通信サービスの基盤には光ファイバーが欠かせません。
モバイルの無線基地局と端末(スマートフォンなど)はそれだけで通信しているわけではなく、全ての基地局はコアシステムと呼ばれる中枢センターに光ファイバーでつながっているのです。
そしてこのコアシステムでは、加入者のユーザー認証や料金計算、そしてどの端末がどの基地局の配下にいるかという位置情報管理などを全て行っています。
あなたが電車やタクシーで移動中にネットをしていても、途切れずに通信し続けられるのは、コアシステムで端末位置を管理し、基地局をまたがって移動する際に、基地局間での受け渡し(ハンドオーバー)を行っているからなのです。
これはWi-Fi(無線LAN)にはできない芸当です。
今や5G(第5世代モバイル通信システム)の時代。
無線区間でもギガビット級の高速無線通信が実現されると、各基地局とコアシステムを結ぶバックボーンネットワークにはさらに高速・大容量のテラビット級、もしくはそれ以上の通信インフラが必要となります。
今後さらに6G(第6世代)などの高速化が必要とされる時代に向け、ネットワークインフラ全体の革新を進めていこうとする構想が「IOWN」であると位置づけられます。
通信事業者間の協力は今に始まったことではない
こうした計画にKDDIなど他の通信事業者も相乗りするというと、不思議に感じる方もいらっしゃるかもしれません。
スマートフォンの販売では、いつも熾烈な競争を繰り広げている業界ですので。
しかし実は、通信事業者が互いに協力するのは、今に始まった話でないのです。
公益社団法人移動通信基盤整備協会(JMCIA)という団体をご存じでしょうか?
ひと言で言うと、地下鉄や地下街などに各通信事業者の共同アンテナを整備する団体で、平成6年(1994年)の設立以来、通信事業者各社からの出向者により運営されています。
地下鉄や地下街は限られた閉鎖空間です。
ここに各社がバラバラに基地局を作ったのでは、設置場所の奪い合いとなり、無理や無駄が生じてしまいます。
そこでこういった場所は競争領域ではなく、協調領域であると位置づけ、各事業者の無線機を接続できる共用アンテナを開発して、公平にサービス提供ができるようにしているのです。
最近では、郊外地などのモバイルエリア展開も、もはや競争している場合ではないとして、KDDIとソフトバンクが合弁会社を作って、協力してエリア整備を行う動きにもなっています。
つくづく時代は変わってきたなと感じる今日この頃です。
もはや日本国内での競争に明け暮れている場合ではない
このように各通信事業者間の協調が広がってきている理由は何でしょうか。
かつては情報通信分野で世界をリードする立場であった我が国が、ここ10年ほどの間に、いつのまにか欧米や中国に遅れをとる形となり、技術開発分野の国際標準化においても主導権をとれなくなっているという現実があります。
通信インフラに関しても、単なる「土管」ではなく、インテリジェントなネットワークに高度化していかなければ、いずれGAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)などのいわゆるハイパースケーラーに席巻されかねないという危機感があります。
競争は重要ですが、もはや狭い日本国内だけでやりあっている場合ではない。
グローバルな視点で、10年後に我が国の産業が再び国際的に存在感を高めていけるよう、一定の分野では団結して協力していく、そういう認識が広がっているのだと思います。
どんな分野、業界でもそうだと思いますが、時代とともに競争のパラダイムは変わっていく。
ある領域では競争するが、協調すべきところではしていく、そういった柔軟な考え方や姿勢がますます重要な時代になっていると言えそうです。
それでは今回はこの辺で。
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