皆さん、こんにちは。
最近、国内通信キャリアのエリア品質競争が激しくなっています。
昨年10月に、英Opensignal社が発表した「モバイル・ネットワーク・ユーザー体感レポート」で、KDDI(au)が全18部門中13部門で1位を獲得するという大躍進を遂げ、「つながる体感No.1」というキャンペーンを展開しています。
◇KDDIのプレスリリース「Opensignal社の通信体感分析、18部門中最多13部門で1位を獲得」(2024/10/16)
◇ケータイWatch「KDDIが国内通信品質で信頼性・一貫性などでトップに、Opensignalの調査レポート」(2024/10/16)
一方で、かつては通信品質には定評のあったNTTドコモは、一昨年あたりから「つながりにくい」といった評価が多くなり、現在も依然として通信品質の劣後に苦しんでいるようです。
今回は、通信キャリアで勤務してきた経験をもとに、各キャリアのエリア品質競争の実態について解説しますので、今後のサービス選びや乗り換え検討の参考にしていただければと思います。

KDDI(au)が大躍進した理由とは
KDDI躍進の理由を探る材料として、今年1月10日に総務省より公表された「令和6年度 携帯電話及び全国BWAに係る電波の利用状況調査の調査結果について」という資料があります。
◇総務省報道発表(2025/1/10)
この中に、「基地局数の調査結果」というページがあり、周波数ごとの基地局数(屋外局)が集計されています。

赤枠で囲った部分が、5G(ファイブジー=第5世代モバイル通信システム)専用に割り当てられた、Sub6(サブシックス)と呼ばれる周波数の基地局数です。
従来の4G-LTE(第4世代システム)で主力として使用されてきた、700~900MHz帯のいわゆる「プラチナバンド」などでは20MHz幅といった狭い帯域で割当てられているのに対し、Sub6では100MHz帯といった広帯域で割当てられていることから、高速大容量な通信で多くのユーザー端末を収容することができ、これが品質の差に大きな影響を与えていると考えられます。
Sub6の局数では、auが39,640局と他社を圧倒しており、これが躍進の大きなポイントになったと言えそうです。
こうした基地局数は、周波数の割り当てをもらうに当たって、各キャリアが「開設計画」を総務省に提出してコミットします。
その開設計画の内容を総務省が審査し、各キャリアに周波数を割り当てているのです。
KDDI(au)は、2019年に5G専用周波数の割り当てを行った際の開設計画の段階で、Sub6の局数約30,000局という超チャレンジングな計画を提出していました(ちなみにNTTドコモ約8,000局、ソフトバンク約7,300局、楽天モバイル15,700局の計画でした)。
◇総務省報道発表「第5世代移動通信システムの導入のための特定基地局の開設計画の認定」(2019/4/10)
開設計画に書いた以上は、何がなんでも達成しなければなりません。
KDDIの基地局建設は必死だったと思いますが、それをやり遂げた結果が現在の高品質につながっているのではないでしょうか。
また冒頭に挙げたプレスリリースの中に、「基地局の出力アップやアンテナ角度の最適化を実施しました」とありますが、これは5Gのサービス開始当初(2020年3月)、衛星通信との電波干渉により、基地局の電波出力を抑えざるを得なかったものが、スカパー!(スカパーJSAT株式会社)との交渉により衛星地球局を移転してもらえたおかげで、本来の出力によりきれいなエリア化ができるようになったことを意味しています。
◇ケータイWatch「KDDIが5G専用周波数によるエリア展開を本格化へ、衛星との干渉緩和でエリア拡大」(2024/2/2)
5Gは従来の4G-LTEに比べて高い周波数帯を利用するため、電波の直進性が高く、緻密にエリアカバーするにはより多くの基地局が必要となります。
当然、多額の設備投資がかかりますが、通信キャリアにとっての生命線であるサービスエリアの拡大と品質向上には、こうしたお金と時間のかかる地道な取り組みによる以外にないと言えそうです。

NTTドコモのエリア品質改善は進んでいるのか
一方で、心配なのがNTTドコモです。
2023年ごろからドコモの品質が悪いとの指摘が増え、ドコモとしても集中的な対策に取り組んできた結果、昨春の段階で大幅な品質改善を行ったと説明されています。
◇ITmedia NEWS「通信品質は本当に改善したのか? ポジティブな話題が少ない『ドコモのいま』」(2024/3/1)
しかしながら冒頭に紹介したOpensignal社のレポートでは、依然として他キャリアに対する劣後が目立つ結果となっています。
NTTドコモは、5Gサービス開始当初、「瞬速5G」というキャッチフレーズを打ち出し、他キャリアに比べSub6の基地局建設を積極的に進めてきたはずでした。
ところが、KDDIやソフトバンクが4G-LTE周波数の5G転用で急速にエリア拡大するのを見て、それに追随するなど、やや迷走ぎみだったことも影響しているかもしれません。
私の邪推ですが、2020年にNTT持ち株会社に吸収合併されたことで、図体が大きくなり、経営判断や取り組みのスピードがダウンしていることはないでしょうか。
経営基盤強化のために合併したはずが、かえって小回りが利かなくなったり、挑戦的な姿勢が失われたりしているとしたら、本末転倒以外の何物でもありません。
我が国の情報通信市場は、通信キャリア同士の激しい競争によって発展してきました。
NTTドコモにはその旗頭としてのプライドをもって、No.1を奪還する意気込みで取り組んでもらいたいものです。

通信キャリアのエリア品質競争の今後は?
昨年6月にモバイル通信技術の国際標準化仕様のリリース18が完了したことを受け、今年から来年にかけて、5Gのアップグレード版である5G-Advancedがサービス提供開始される見込みです。
そして2030年ごろを目処に6Gの実用化に向けた研究も進められています。
5G-Advancedでは、より体感品質を向上させる改善や、AI(人工知能)、XR(クロスリアリティ=VRなどの仮想現実技術)、IoT(Internet of Things=家電や自動車などあらゆるものがインターネットに接続される仕組み)など新技術、新サービスに対応した機能が強化されると言われています。
モバイル通信でも超広帯域化されたことを利用し、あたかも仮想専用線のような利用が可能となる「ネットワーク・スライシング」もいよいよ具現化されるのではないかと思います。
5Gには、4G-LTEのときのスマートフォンのようなキラーサービスがなく、何がいいのか、いまいちピンときていませんでしたが、5G-Advancedをベースに、そろそろ分かりやすいユースケースが出てきてもらいたいところです。
その性能が遺憾なく発揮されるのも、5Gのエリアがバッチリできていてこそ。
これまで積み上げてきた努力の真価が問われるところです。
各通信キャリアは今後も激しいエリア品質競争を繰り広げるでしょうし、それにより私たちの利便性も向上することを期待したいと思います。
それでは今回はこの辺で。
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