情報流通プラットフォーム対処法とSNS加害リスクへの注意
- 北島コウ
- 5月7日
- 読了時間: 6分
皆さん、こんにちは。
一昨年、私が行政書士試験に合格した際、「一般知識」科目の中で学んだ法律の一つに、プロバイダ責任制限法(正式名称「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」)がありました。
インターネット上の誹謗中傷や名誉毀損などのトラブルに対応するための重要な法律です。
そのプロバイダ責任制限法が、今年4月1日より「情報流通プラットフォーム対処法」(正式名称「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」、以下「情プラ法」といいます)と名称を改め、改正施行されたそうです。
今回は、この新しい情プラ法について、その背景やポイント、中小企業にとっての注意点などを解説したいと思います。
◇特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律(平成十三年法律第百三十七号)

プロバイダ責任制限法から情プラ法へ
従来のプロバイダ責任制限法は、2002年に施行されました。
当時は、SNSなどのインターネット掲示板で個人や企業への誹謗中傷の他、著作権を侵害したコンテンツや児童ポルノなどの違法・有害情報の拡散が相次ぎ、それに対して掲載情報の削除や発信者情報の開示請求が寄せられるようになった時期だと思います。
しかし、プロバイダ側には、それに応じるための明確な法的根拠がなく、対応に苦慮するケースが多かったのです。
例えば、被害者から削除要請を受けた場合、削除に応じると投稿者(発信者)から「表現の自由を侵害された」として損害賠償を求められる可能性があり、逆に削除しないと被害者から責任を追及されるという、板挟みの状況に置かれるわけです。
そこでプロバイダ責任制限法では、「権利が侵害されていると信じるに足る相当な理由がある場合」に、一定の手続きに従ってプロバイダが情報を削除したときは、発信者から損害賠償責任を問われないと定めました。
また逆に、権利侵害が明白ではない場合には、削除しなくても被害者に対する責任を免れることとしました。
さらに、被害者において、権利侵害が明白で、正当な理由がある場合には、プロバイダに対して発信者の情報開示を請求できる仕組みも整えられました。
このように、プロバイダ責任制限法は、情報の媒介者であるプロバイダを法的リスクから守りつつ、被害者救済の道を開くことを目的として制定されたのです。

情報流通プラットフォーム対処法のポイント
では、なぜ今回、プロバイダ責任制限法が「情報流通プラットフォーム対処法」と改称され、改正・施行されたのでしょうか。
その背景には、インターネット上の人権侵害が今なお後を絶たないという現実があります。
SNSなどでの誹謗中傷、プライバシー侵害、フェイクニュースの拡散といった問題が深刻化するとともに、発信者情報の開示請求について「手続きに時間がかかりすぎる」という声が強く上がっていたことが、今回の法改正につながったと考えられます。
情プラ法では、こうした課題を受けて、いくつかの重要な内容が盛り込まれ、強化されました。
まず、従来のプロバイダ責任制限法がプロバイダを「特定電気通信役務提供者」と定義していたのに対し、情プラ法では、「大規模」特定電気通信役務提供者を定義し、総務大臣がこれを指定するとしました。
4月30日に、次の5社が大規模特定電気通信役務提供者として指定されました(括弧内は主な提供サービス)。
Google(YouTube)
LINEヤフー(Yahoo!知恵袋、LINEオープンチャット等)
Meta(Facebook、Instagram等)
TikTok(TikTok)
X(旧Twitter)
◇総務省報道資料「情報流通プラットフォーム対処法第20条第1項に基づく大規模特定電気通信役務提供者の指定」(2025/4/30)
大規模特定電気通信役務提供者はこれら5社に限定されるものではなく、今後追加指定が検討されているそうです。
これら指定を受けた大規模なプロバイダは、あらかじめ侵害情報の調査専門員を選任して総務大臣に届ける他、被害者からの申し出を受け付ける窓口や方法、削除の判断基準などもあらかじめ定めて公表しなければならないことが義務付けられました。
また、被害者から申し出があった場合には、不当な権利侵害の有無について遅滞なく調査を行い、その調査結果を、原則として申し出を受けた日から14日以内の総務省令で定める期間内に申し出者に通知しなければならないと定めました(総務省令の定めは現時点で確認できませんが、7日と定められるもようです)。
このように社会的に大きな影響力を持つ大規模プロバイダには、迅速な対応と対応状況の透明性を高める義務が課され、社会全体として「ネット上の人権侵害を許さない」という方向性が強化されたと言えるでしょう。

SNS活用と中小企業が気を付けるべきこと
最近では、多くの中小企業が自社のPRやマーケティング活動の一環として、SNSを積極的に活用するようになっています。
InstagramやX、TikTokなどでの情報発信は、低コストで大きな効果が期待できる一方で、情報発信のリスクも無視できません。
また、従業員が業務に関してSNSへ投稿した内容が、誰かの権利を侵害してしまった場合にも、情プラ法の適用により、被害者から削除申出や発信者情報の開示が請求され、企業としての責任も問われる可能性が、従来以上に高まるものと想定されます。
企業としては、SNSの利用ルールやガイドラインを整備し、従業員への教育を徹底することが今まで以上に重要となるでしょう。
さらに、会社としての公式な投稿内容についても、第三者への権利侵害がないか慎重に確認することが求められます。
インターネットが広く普及し始めた1990年代、「世界中の人々が国境を越えて自由にコミュニケーションできる」新しいテクノロジーに私は心を躍らせました。
その頃のインターネットには、互いに助け合い、知識を共有し合う、ボランティア精神に満ちた空気があったように記憶しています。
しかし、それから30年が経過し、今や誹謗中傷やデマ、果ては犯罪行為に利用されるケースも増え、法による規制が必要とされるまでになったことは、本当に悲しい限りです。
自由かつ匿名であることを良いことに、他人を傷付けたり、権利を侵害したりすれば、結局は規制によってその自由を失うことになります。
自由や権利を主張することは、あくまで公共の福祉に反しないことが前提という、人権の基本的な考え方を改めて確認すべきではないでしょうか。
SNSやインターネット上の情報発信においても、他者への配慮や法的責任を意識しながら、心して大切に行っていくことがますます重要になるものと言えそうです。
それでは今回はこの辺で。
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